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名古屋地方裁判所 昭和57年(行ウ)6号 判決

原告

服部憲夫

右訴訟代理人弁護士

福間昌作

景山米夫

被告

名古屋市長

西屋武喜

右訴訟代理人弁護士

鈴木匡

大場民男

右訴訟復代理人弁護士

山本一道

鈴木順二

伊藤好之

鈴木和明

深井靖博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五五年三月三一日付でした別紙物件目録(一)記載の土地についての換地処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業(以下、「本件事業」という。)の施行者である被告は、原告に対し、昭和五五年三月三一日付で原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「本件従前地」という。)の換地を同目録(二)記載の土地(以下、「本件換地」という。)とし、清算金六一万九三七一円を交付する旨の換地処分(以下、「本件換地処分」という。)をした。

2  しかしながら、本件換地処分は、以下の理由により違法である。

(一) 照応原則違反

(1) 本件従前地の地積、位置、利用状況、環境は次のとおりである。すなわち、

本件従前地(面積、二一七・六一平方メートル)は、拡幅前の市道秋竹線に南面し、間口約一九メートル、奥行が西側約六メートル、東側約一二メートルの形状の土地であり、その西方約一〇メートルの位置に右秋竹線と拡幅前の国道伏見町線との交差点があつた(別紙図面一参照)。また、本件従前地は名鉄金山橋駅の現在位置から至近距離にあり、大津橋通りの旧及び現バス路線から三〇〇メートル、伏見通りのそれから一〇メートルの位置にあり、昭和三七年に開設した国鉄金山駅、同四二年に開設した地下鉄金山駅にそれぞれ四〇〇メートルの距離で便益を受け得る位置にあつた。

(2) 本件換地(面積、一七四・一八平方メートル)は、いわゆる飛換地であり、本件従前地の原位置でないことはもちろん、接近した位置でもなく、その西方約一三五メートルの位置にあり、本件区画整理の結果、本件従前地は地名は「中区金山」となり、本件換地のそれは、「中区正木」となつた。

本件換地は、本件従前地と同様、秋竹線(拡幅後のもの)に南面しているが、間口一〇・三五メートル、奥行(平均)一七メートルの形状の土地となり、主要幹線道路である伏見線(拡幅後のもの、現国道一九号線、幅員五〇メートル)と秋竹線との交差点から約九五メートル西の位置にあり、名鉄金山駅、大津通りバス路線からの距離が、本件従前地からのそれに比較し、約一三〇メートル増加することになつた(別紙図面二参照)。

(3) 右のとおり、本件従前地は、人の往来の要衝地にあり、土地の有効利用がなされ得る位置、環境にあつた上、公共交通機関の利用に関しても、至便の位置になつたのに対し、本件換地は飛換地であつて、間口が約半分となり、奥行が長くなつて有効利用の難しい土地となつた上、主要幹線道路である伏見町線と秋竹線の交差点から約九五メートルの距離があるため人の往来の便益は、本件従前地に比較し、顕著に劣るというべく、また、公共交通機関の利用に関しても距離が遠くなり、不便になつた。また、後記(二)記載のとおり、本件従前地の近隣には、換地とすることが可能な土地が存在したのであり、これを無視して前記のとおり遠方に飛換地したがために、右のような不照応が生じたものである。

以上のとおり、本件換地は、本件従前地の原位置を尊重しないでなされたものであり、これと比較して、その位置、環境、利用状況の点で劣り、照応しないものというべきであり、被告が原告に交付した清算金も、右両土地の不均衡を清算し得るに足るものとはいえず、結局、本件換地処分は違法である。

(二) 被告は本件事業を施行するにつき、その事業施行権を違法に行使したものであるから、本件換地処分は違法である。

(1) 被告は、昭和二四年五月一八日付で愛知県知事の認可を受けた設計書(以下、「当初設計」という。)において、本件従前地及びその付近の街区を、金山総合駅計画の一環として、広場及び鉄道用地と設計したため、本件従前地を含めて付近の宅地については、原位置はもとよりその至近地において換地設計することができなかつたと主張する。

(2) しかしながら、鉄道用地を公共の用に供するものと定めた当初設計は違法な事業施行権の行使である。

すなわち、特別都市計画法、同法施行令、旧都市計画法(大正八年四月五日法律第三六号)、耕地整理法には、これを許容する規定がないにもかかわらず、被告は、当初設計において、本件従前地付近について、別紙図面四の第1図記載のとおり、広い鉄道用地を確保し、換地の対象となる宅地から右用地を違法に除外したため、本件換地処分のような飛換地処分をせざるを得なくなつたのである。しかるに、被告は同図面の第2図によると、昭和三〇年の設計変更において、鉄道用地を縮小して広場部分を拡張し、更に、同図面の第3図によると、昭和四三年の再度の設計変更において、鉄道用地を廃止して、その一部を未指定地とし、広場を拡張している。このことは、被告において、広い鉄道用地を換地の対象となる宅地から除外した当初設計の誤りを自認したものというべきであり、遅くとも、右の再度の設計変更の時点においては、本件従前地付近に換地すべき宅地がないとの事実は消滅したのであるから、右未指定地の部分に本件従前地の換地を指定すべきであつた。

(3) また、被告が、当初設計において、広場を公共施設用地と定めたことも違法な事業施行権の行使である。

すなわち、別紙図面四の第1図によると、当初設計において、本件従前地の原位置付近に設定された公園及び広場並びに広場の南に接する公園はいずれも極めて狭小なものであり、これを公共の用に供する公園及び広場として設置することによる効用はなく、これを公共のために用いる理由はない。また、被告が同図面第2ないし第4図に記載のとおり、その後、設計変更を重ね、公園の廃止及び広場の計画変更を行つた事実は、右広場及び公園が、真実、公共の必要のための公園でも広場でもないことを、被告において自認したものというべきである。更に、現在における広場の状況は、工事業者である鹿島建設株式会社及び名工建設株式会社が私有建物敷地及び物置場として使用している部分、財団法人名古屋市駐車場公社が駐車場として使用している部分があり、かつ、その全周囲には高い障壁が設置されており、公衆の用に供する広場としての機能は全くない。当初設計以来、三〇年以上経過してなお、その用途(広場)に使用されていない事実は、右用地を広場とする必要性がないことを裏付けるものである。

(三) 原告に対する本件換地処分は、本件従前地付近の宅地所有者に対する換地処分に比較し、不当に不利益なものであり、不公平なものであるから違法である。

すなわち、別紙図面一の赤線で囲んだ従前の各土地に対する各換地の内容は別表及び別紙図面七記載のとおりであるが、そのうち、左記の各換地は、原告に対する本件換地と比較して、①道路の幅員及び交通経路による幹線、主要度の差、②これら道路に面し、若しくはそれらとの距離の差、③公共交通機関との距離の差、④地域によつて形成される公衆の集散、商業的繁華等の地況等の点において、不公平に利益な換地というべきである(なお、左記の図面番号は、別紙図面七に記載された番号である。)。

(1) 別表の番号1、図面番号の①の換地

(2) 同表の番号2、図面番号④の換地

(3) 同表の番号3、図面番号⑥の換地

(4) 同表の番号4、図面番号⑨の換地

(5) 同表の番号56、図面番号⑩の換地

(6) 同表の番号6、図面番号⑪の換地

(7) 同表の番号6149、図面番号⑫の換地

(8) 同表の番号6、図面番号⑬の換地

(9) 同表の番号7、図面番号⑮の換地

(10) 同表の番号7、図面番号⑯の換地

(11) 同表の番号812、図面番号⑰の換地

(12) 同表の番号15、図面番号の換地

(13) 同表の番号17、図面番号の換地

(14) 同表の番号1011、図面番号の換地

3  よつて、原告は被告に対し、本件換地処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1、同2の(一)の(1)、(2)は認め、同2の(一)の(3)は争う。同2の(二)の冒頭の主張は争い、同2の(二)の(1)は認め、同2の(二)の(2)、(3)については、被告が別紙図面四の第1ないし第4図記載のとおり、設計変更した事実は認め、その余は争う(なお、同図面第1図に公園と記載されているのは、都市公園法上の公園ではなく、いわゆるロータリー(街園)である。)。同2の(三)は、別紙図面一の赤で囲んだ従前の各土地に対する各換地の内容が別表及び別紙図面和七記載のとおりであることは認め、その余は争う。同3は争う。

三  被告の主張

1  本件換地処分に至る経緯

(一) 名古屋市は昭和二一年に戦災復興計画の一環として幹線街路網を策定し、昭和二一年六月二七日戦災復興院告示第四五号により戦災復興都市計画決定として、都市計画街路が決定された。右都市計画決定において、伏見町線は、幹線街路広路第八号伏見町線(幅員五〇メートル)とされ、秋竹線は、幹線街路二等大路一類四号秋竹線とされ、本件従前地は、右計画によると駅前広場用地、交差点のロータリーの部分に当たることになつた(別紙図面四の第1図参照)。

(二) 本件事業の熱田第一工区の当初の事業設計においては、右都市計画決定に基づき、伏見町線は幅員五〇メートル、秋竹線については本件従前地付近では幅員三〇メートルで設計された(この設計書は、特別都市計画法施行令一一条の規定により、昭和二四年五月一八日、愛知県知事の認可を受け、同月二四日告示された。)。右設計において本件従前地及びその付近の街区は、金山総合駅計画の一環として、広場及び鉄道用地となつた(別紙図面四の第1図参照)。

(三) 右の当初設計により、本件従前地及び本件従前地のあつた街区は、伏見町線、秋竹線の拡幅用地、広場新設用地及び鉄道用地とされたので、本件従前地を含むその付近の宅地については、原位置はもとより、その至近地において換地設計することは不可能となつた。

(四) そこで、本件従前地については、西方約一三五メートルの位置にいわゆる「飛換地」として設計し(別紙図面三参照)、昭和二五年七月一四日付で熱田第一工区二二Cブロック五番、五〇・七三坪の宅地を仮使用地として指定した。

(五) その後、昭和三〇年には、別紙図面四の第2図のように設計変更された。この設計変更においては、金山総合駅の計画はそのままであり、本件従前地は伏見町線、秋竹線の道路の交差点内に位置することになつた。

なお、この設計変更については、特別都市計画法施行令一一条の規定に基づき、昭和三〇年三月三〇日付で愛知県知事の認可を受け、同日告示された。

(六) 昭和三〇年三月三〇日付同年四月五日配達の換地予定地指定通知書で前記仮使用地を換地予定地として指定した。なお、右換地予定地は、同年四月一日、土地区画整理法施行後は、同法施行法六条により仮換地とみなされることになつた。

(七) 金山総合駅計画に基づいて昭和三七年に国鉄中央線金山駅が鉄路の北側に設けられ、昭和四二年に地下鉄金山駅が開設されたが、昭和四三年になつて、金山総合駅の駅舎設置計画(北側のほかに南側にも駅舎を造るという計画)が変更になり、中央線、名鉄線、東海道線上の橋上駅とすることとなり、南側の駅舎は不用となつた。

(八) 昭和四三年八月、右計画変更に伴い、熱田第一工区に係わる事業計画変更が行われ、鉄道用地(駅舎予定地)が廃止され、国鉄への換地予定地であつた右土地が未指定地(約三四二〇平方メートル)となつた(別紙図面四の第3図及び別紙図面五参照)。

(九) 昭和五四年九月、熱田第一工区に係わる事業計画の変更が行われ、広場と未指定地の形状、面積等が変更になつた。右変更は、別紙図面四の第3図のような横に細長い不整形な土地は設計上不都合であるので、同図面の第4図のように、ブロック枠はそのままとし、その中の駅前広場及び未指定地の位置、形状、面積を変更するというものであつた。その結果、駅前広場は五〇一九平方メートル、未指定地は約二六四〇平方メートルとなつた(別紙図面六参照)。

(一〇) 右未指定地が金山総合駅南口の整備上必要な土地であることについては何ら変りはなかつたので、この用地の手当てをする必要があつたが、この手当てのできる者は結果的には名古屋市以外には見当たらなかつた。

(一一) そこで、被告は、昭和五四年一一月一日付で右未指定地について、名古屋市所有の従前地、熱田区花町三丁目六番、一一番、一一番二、一二番、一二番の二、一三番の四以上六筆合計面積二四三三・九三メートル(一団の土地、仮換地は指定保留)及び港区港陽町六八三番の五二、宅地九九七・六一平方メートル(仮換地は熱田第三工区一五Hブロック二番、五二八平方メートルに指定されていたのを撤回した。)に対する仮換地として、熱田第一工区二五Aブロック一〇番、二六四〇平方メートル(確定測量の結果、実測面積は二六四九・三八平方メートル、別紙図面四の第4図の斜線部分、別紙図面六の黄線で囲まれた部分)を定めた。

(一二) 右の名古屋市に対する仮換地は、総合駅南口の整備のため広場と一体的に公共的利用に供されるものであるから、名古屋市が右未指定地について用地取得する方法としては、事業計画を変更し、土地区画整理法一〇五条三項の規定により広場用地として取得することも法的には可能であつたが、右未指定地の従前の経緯等に鑑み、従前地に対する仮換地指定という手法を採つたのである。

(一三) 被告は、昭和五五年三月三一日、本件従前地を含む熱田第一工区について換地処分を行つた(本件換地処分も行われた。同年七月一二日公告)。本件換地処分は前記の原告に対する仮換地をそのまま換地として維持したものである(確定測量の結果、六・四八平方メートルの面積増)。

また、名古屋市に対する前記仮換地も、これにより、いわゆる本換地として確定した。

(一四) 以上のとおり、本件換地は、昭和二五年七月一四日に仮使用地として指定され、昭和三〇年三月三〇日に換地予定地指定、同年四月一日、土地区画整理法の施行により仮換地とみなされ、以来、昭和五五年三月三一日に本件換地処分が行われるに至るまで、約三〇年という長期間にわたり、不服申立て、訴えの提起もなく平穏に経過してきたものである。しかるに、原告は、現時点において換地の位置について不服を述べ、本訴を提起したのであるが、このようなことは、権利濫用、権利失効の原則からみて許されない。

2  照応原則違反の主張について

(一) 土地区画整理法八九条一項所定の照応の原則とは、同条項に定める換地及び従前の土地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等の諸要素を総合的に勘案して、指定された換地がその従前地と大体同一条件にあり、かつ、それぞれの換地が概ね公平に定められるべきことをいうものである。原告は、いわゆる原地換地が照応の絶対的な要件の如く主張するが、位置は照応の諸要素の一つにすぎない。原地換地は、通常の場合、他の諸要素も比較的照応し得るであろうということにおいて意味があるのであつて、必ずしも絶対的な要件ではない。位置については、道路との接続関係(どのような道路に接面しているか、角地か普通地か等)が重要なのである。

(二) 本件従前地は別紙図面一記載のとおり、幅員約九メートルの拡幅前の市道秋竹線に南面し、間口約一九メートル、奥行六ないし一二メートルのやや不整形の宅地であつた。付近の状況についていえば、道路は、右秋竹線と幅員八メートルの伏見町線(拡幅前)の他は幅員が狭く、かつ、曲折したものであり、また公園等の公共空地もなく、公共施設は至つて未整備な状況で区画も整然とせず、交通、防災、衛生等の状態及び環境は決して良好なものではなかつた。

(三) 本件換地は、本件従前地の西方約一三五メートルの位置に定められたが、別紙図面二のとおり、幅員二〇メートルに拡幅整備された歩車道区分の市道秋竹線に南面し、間口一〇・三五メートル、奥行一六・七二ないし一七・二七メートルの整形な宅地である。付近の状況についていえば、道路は接面する市道秋竹線、、東方約九五メートルの幅員五〇メートルの伏見町線(現在、国道一九号)等の幹線街路拡幅整備の他、幅員一〇メートルあるいは八メートル等の適正幅員を有する区画街路が縦横に新設若しくは拡幅整備され、また、西方約七〇メートルに正木南公園が新設されて公共空地も確保される等、本事業により公共施設は地帯的に著しく整備され、各街区も整然と区画され、交通、防災、衛生等の状態及び環境は従前に比べて極めて良好になつている。

(四) 以上のとおり、本件換地は、たとえ飛換地であつても従前と同じ路線(もつとも、本件換地付近は、本件従前地付近と異なり、以前は佐屋街道と称し、昔からの繁華な街道筋である。)に南面していること、周辺の公共施設が整備されていて宅地としての利用価値が極めて高いこと等を考慮すれば、総合的にみて本件従前地とほぼ同一の条件にあるといえる。また、本件換地処分の減歩率は一九・九六パーセントで工区平均減歩率二七・五パーセントより低く、他の者に対する換地処分と比較しても特に不利なものではない。

(五) 原告は、本件従前地の近隣には換地とすることが可能な土地(未指定地)が存在したのに、これを無視して遠方に飛換地したことにより不照応が生じた旨主張するが、右主張は、次のとおり失当である。すなわち、

(1) 鉄道用地(駅舎予定地)の廃止によつて生じた未指定地(別紙図面四の第3図、別紙図面五参照)は、総合駅の南側の駅前広場に接し、国道へ接続した貴重な用地で国鉄の駅舎用地としては不用になつても、国鉄、名鉄、市営地下鉄を総合した、いわゆる金山総合駅建設の暁には、駅南口の整備上必要な土地であり、私人へ換地できない土地であつた。

(2) また、飛換地とした従前地を右未指定地の位置に戻す(仮換地の変更)とすれば、仮換地指定以来、長年経過し、これを基に発生した新たな法律関係、事実関係(なかには、本件従前地の地上建物がそうであつたように、飛換地となつたために借家関係を解消した事例もある。)を覆すことになり、法的安定性を損うことになる。更に、従前の状況より狭くなつた右未指定地の形状、面積からみて全筆について戻すことは換地設計上不可能であり、もし、特定の筆についてだけ戻すようなことをすれば、関係権利者間に新たな不公平(差別)が生じ、混乱が起きて収拾がつかず、ひいては本件事業の施行に支障をきたすのである。そこで、被告は、右未指定地へ戻すような仮換地指定の変更は、原告はもちろんの他の人についてもしなかつた。

したがつて、前記1のとおり、本件事業は、その終り近くになつて、設計変更があつた特殊なケースであり、また、右のような事情があることを勘案すると、右未指定地を名古屋市有地に換地処分したことは、現実に即した適切妥当な措置であり、何らの違法はない。

なお、現時点における金山総合駅のプランは別紙図面八に記載のとおりであり、名古屋市に対する前記換地を含む一団の土地については、そこにバスターミナル、緑地等を設け、名古屋市の副都心たる金山の南玄関にふさわしく整備しようとするものであり、右換地は広場と一体的に公共的用途に供されることになる。

3  事業施行権の違法行使の主張について

(一) 鉄道用地について

旧都市計画法は、「道路、広場、河川、港湾、公園、緑地其ノ他政令ヲ以テ指定スル施設」を、都市計画事業上、特別の扱いをし(同法一六条)、右政令たる旧都市計画法施行令二一条は、「鉄道、軌道、運河……」と鉄道をトップに置いていた。

特別都市計画法は、「公共の用に供するものと定める土地」と「それ以外の土地」、すなわち「宅地」の二分類しか定めていなかつた(同法二条)ので、鉄道用地は特別都市計画法上宅地であつたが、公益的施設用地として設計すべきものであつた。なお、復興土地区画整理事業の基準となつた復興土地区画整理設計標準(昭和二一年七月四日戦復土第一〇七号戦災復興院次長通牒)は、各種の公益的施設用地(前記の二分類によれば宅地)については、事業設計においてその配置を設計するものとしていた。

そして、このことは、土地区画整理法施行後は、同法施行規則(昭和三〇年建設省令第五号)六条三項の規定で明確に示された。すなわち、事業計画の設計図には「公共施設」と並んで「鉄道、軌道、官公署、学校及び墓地の用に供する宅地」の位置、形状を表示したようなものでなければならないとされたのである。

したがつて、鉄道用地を事業の設計に入れ、それに該当するブロック内の従前地を飛換地したことは適法である。

(二) 広場について

広場は、特別都市計画法二条、同法施行令二条によつても、また、土地区画整理法二条五項によつても、「公共施設」とされており、これを公共施設として事業計画を決定し、換地設計することには何ら違法な点はない。

本件広場について最終的な整備がされていないことは原告の指摘するとおりであるが、金山総合駅の整備については、地方自治法二条五項の規定による名古屋市基本構想(昭和五二年一二月二〇日市議会議決)に基づいて昭和五五年一月に策定された名古屋市基本計画、実施計画として昭和五六年に策定された第六次名古屋市短期計画においても、その整備を推進すべきことを明確に定めているのであり、本件広場も金山総合駅の整備計画が具体的に決定されれば、その設計に合わせて整備することになる予定である。また、本件広場は他の土地(道路等)との境は明確となつており、本件広場上には、土地区画整理事業上、移転除却すべき建築物はないので、土地区画整理法一〇三条二項所定の工事は完了しているのであり、仮に、広場としての何らかの工事が必要と解するとしても、本件事業の施行規程(名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業施行規程、昭和三一年名古屋市規則二〇号)三五条は、換地処分は換地計画に係る区域の全部について工事が完了する前においてもすることができる旨を定めているので、工事が換地処分の後になつても違法ではない。

(三) ロータリーについて

ロータリー(街園)は、公共施設たる道路施設の一種で、道路の一部をなすものであるから、被告がした昭和二四年の当初設計には違法はない。なお、本件ロータリーは、現行の道路構造令(昭和四五年政令三二〇号)二条一三号に規定する「交通島」に該当するものである。

4  不公平取扱いの主張について

金山総合駅南広場に所在した従前地(別紙図面一の赤線で囲まれた土地)に対する換地処分は、本件換地処分を除くと三三あるが、原告は、そのうち一四の換地処分を取り上げて原告より有利なものであり、したがつて、原告は不利、不公平に取扱われたと主張している。そうすると、残り一九については、原告と同等若しくは原告の方がより有利な処分という主張に帰することになる。

したがつて、原告の主張自体から、もはや有利、不利は無意味となり、原告に対する不公平は全くないことになる。

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張のうち、被告が別紙図面四の第1ないし第4図記載のとおり設計変更した事実及び本件従前地の位置、状況が別紙図面一記載のとおりであり、本件換地のそれが別紙図面二記載のとおりであることは認め、その余の主張は争う。

図面四

設計変更(事業計画)の経緯

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因2の(一)(照応原則違反)について

1  請求原因2の(一)の(1)、(2)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  右争いがない事実、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

名古屋市は、昭和二一年に戦災復興計画の一環として幹線街路網を策定し、同年六月戦災復興都市計画決定として都市計画街路が決定された。右都市計画決定において、本件従前地が南面し、東西に通ずる当時の市道秋竹線(幅員約九メートル)及び本件従前地の西方約一〇メートルの位置にあり、南北に通ずる国道伏見町線(幅員八メートル)の拡幅整備が決定された。右計画によると、本件従前地は、ほぼ右各道路の交差点内のロータリーの部分に当たることになつた。また、本件事業の熱田第一工区の当初の事業設計(以下、「当初設計」という。)においては、右都市計画決定に基づき伏見町線は幅員五〇メートル、秋竹線については、本件従前地付近では幅員三〇メートルで設計され、右設計において、本件従前地及びその付近の街区は、金山総合駅計画の一環として、広場、公園、鉄道用地として計画された(右当初設計の内容は別紙図面四の第1図のとおりであり、この設計書は、特別都市計画法施行令一一条の規定により、昭和二四年五月一八日、愛知県知事の認可を受け、同月二四日告示された。)。

当時の本件従前地の状況は、右のとおり、拡幅前の市道秋竹線に南面し、間口約一九メートル、奥行が西側約六メートル、東側約一三メートルで形状のやや不整形な宅地であり、その西方約一〇メートルの位置に右秋竹線と拡幅前の伏見町線との交差点があつた。本件従前地付近の状況は、道路は、右の二つの道路の他は幅員の狭く、かつ、曲折したものが多く、また、公園等の公共空地もなく、区画も整然とせず、未整備な状況であつた(本件の位置関係及び形状は、別紙図面一のとおりである。)。原告は、昭和二二年一一月頃、売買により本件従前地を取得したのであるが、当時、右土地上には、第三者所有の建物が存在し、右建物は営業用の店舗として、別の第三者(三名)に対して賃貸されていた。原告は、当時、三等郵便局(特定郵便局)の局長であり、右のとおり、右土地上には第三者所有の建物もあり、右建物には借家人もいたことから、原告自身が、右土地において、営業行為を行う等の具体的な計画は有しておらず、原告は資産運用の一方法として、本件土地を取得したものである。

前記のとおり、当初設計により、本件従前地及び本件従前地のあつた街区は、伏見町線、秋竹線の拡幅用地、広場新設用地及び鉄道用地とした結果、本件従前地を含むその付近の宅地については、原位置はもとより、その近傍地に換地設計することはできないことになつた。そこで本件従前地を含むその付近の宅地については、すべて飛換地として換地設計され(別紙図面一の赤線で囲まれた部分に存在した各従前地に対する各換地の内容は別表及び別紙図面七記載のとおりである。)、本件についても、その西方約一三五メートルの位置に飛換地として設計し、被告は原告に対し、昭和二五年七月一四日付で熱田第一工区二二Cブロック五番、五〇・七三坪の宅地を仮使用地として指定した(右仮使用地の位置関係及び形状は、別紙図面二の本件換地のそれと同じであり、本件従前地との位置関係は、別紙図面三のとおりである。なお、右仮使用地については、その後の確定測量の結果、面積増となり、本件換地の地積となつた。)。

その後、昭和三〇年には、別紙図面四の第2図のように設計変更された。この設計変更においては、金山総合駅の計画は従前通りであるが、本件従前地は伏見町線、秋竹線の道路の交差点内に位置することになつた。

被告は、原告に対し、昭和三〇年三月三〇日付の換地予定地指定通知により、右仮使用地を換地予定地として指定した(なお、右換地予定地は、同年四月一日、土地区画整理法施行後は、同法施行法六条により仮換地とみなされることになつた。)。

昭和三七年に、金山総合駅計画に基づいて、国鉄中央線金山駅が鉄路の北側に設けられ、昭和四二年に地下鉄金山駅が開設されたが、昭和四三年になつて、金山総合駅の駅舎設置計画(鉄路の南側にも駅舎を設置するとの計画)が変更になり、国鉄中央線、東海道線及び名鉄線上の橋上駅とすることになり、南側の駅舎は設置しないことになつた。

昭和四三年八月、右計画変更に伴い、熱田第一工区に係わる事業計画の変更が行われ、鉄道用地(駅舎予定地)が廃止され、国鉄への換地予定地であつた右土地が未指定地となつた(右変更後の事業計画による本件従前地付近の状況は、別紙図面四の第3図、別紙図面五のとおりである。)。

昭和五四年九月、熱田第一工区に係わる事業計画の変更が行われ、広場と未指定地の位置、形状、面積等が変更になり、その位置、形状は、別紙図面四の第4図及び別紙図面六のとおりとなつた(広場の面積、五〇一九平方メートル、未指定地の面積は、約二六四〇平方メートル)。

右の金山総合駅の駅舎設置計画の変更、それに伴う事業計画の変更が行われはしたものの、被告は、従来から右未指定地と広場用地とを合わせた土地については、終始一貫して金山総合駅南口の整備上、必要な土地であると考え、右土地を金山総合駅に関連する公共的な施設、用途のために一体的に利用し得るように換地設計をし、事業計画を立ててきたものであり、このような被告の基本的な方針には何らの変更もなかつたので、被告は、従前の経緯、右未指定地を公有地として確保しておく必要性等に鑑み、昭和五四年一一月一日付で右未指定地を、名古屋市所有の従前地に対する仮換地として指定した(右仮換地は、別紙図面四の第4図の斜線部分、別紙図面六の黄線で囲まれた部分である。)。

被告は、昭和五五年三月三一日、本件従前地を含む熱田第一工区について換地処分を行い、本件換地処分も行われた。本件換地処分は、前記の原告に対する仮換地をそのまま換地としたものであつた。なお、名古屋市に対する前記仮換地も、これにより、いわゆる本換地として確定した。

本件換地は、本件従前地の西方約一五三メートルの位置にあるが、本件従前地と同様、幅員二〇メートルに拡幅整備された市道秋竹線に南面し、間口一・三五メートル、奥行(平均)一七メートルの整形された土地となつた。また、本件換地は、主要幹線道路である拡幅後の国道伏見町線(幅員五〇メートル)と秋竹線との交差点から約九五メートル西方に位置することになり、右交差点への距離は、本件従前地と比べ、幾分遠くなるとともに、名鉄金山駅等の交通機関への距離も約一三〇メートル程度増加した。本件換地付近の道路は、右の二つの幹線街路の他にも幅員八ないし一〇メートル程度の適正幅員を有する区画街路が相当数、新設若しくは、拡幅整備され、また、本件換地の西方約七〇メートルの位置に正木南公園が新設されて公共空地も確保され、各街区も整然と区画されることになつた(本件換地の位置関係及び形状は別紙図面二のとおりである。)。なお、本件従前地上に所在した建物については、本件事業を遂行する過程で、被告が建物所有者、借家人に対し、移転交渉を行い、相当額の補償金を支払つた上で、右建物に関する権利関係を消滅させ、被告において、右建物等の地上物件を完全に撤去した結果、本件換地は、更地として、原告に与えられることになつた。

現時点における金山総合駅計画の概要は、別紙図面八に記載のとおりであり、名古屋市は、同市に対する前記換地部分を含む金山総合駅南側の一団の土地については、そこにバスターミナル、タクシー乗降場、緑地等の公共的な施設を設け、一体的に公衆の利用に供することを計画している。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  ところで、照応を考慮する基準となる土地の状況は、原則として、従前地については、本件事業開始当時、具体的には、被告が当初の設計書について愛知県知事の認可を受け、告示がなされた昭和二四年五月二四日頃の状況、換地については、本件土地区画整理完成の時点において想定される状況によるべきものと解すべきであり、また、土地区画整理法八九条所定の照応の各要素については、それぞれが個別的に照応していることが望ましいが、施行地区内のすべての宅地について照応の各要素が個別的に照応するように換地を定めることは技術的に不可能な事柄であるから、右照応の一要素が全く考慮されていないような場合は不照応といわざるを得ないが、そうでない限り、右各要素を総合的に考慮して照応の有無、すなわち、従前地と換地がほぼ同一条件にあると認められるか否かを検討するのが相当である。

このような見解に立つて、本件換地処分につき、照応の有無を検討するに、前記認定の事実関係によれば、本件換地処分は、原地換地ではなく飛換地ではあるが、それは、当初設計において、本件従前地の殆どが換地設計上、伏見町線、秋竹線の各道路の拡幅用地(ロータリー)に含まれ、道路敷地とされたことによるものであり、また、本件従前地のあつた街区は、右拡幅用地、金山総合駅計画の一環として広場新設用地、鉄道用地として設計されたため、右街区に属する一帯の土地は、すべて飛換地とされたものであることを考慮すると、公共施設の整備改善と宅地の利用増進という土地区画整理事業本来の目的(土地区画整理法二条一項)を達成するためには、本件換地処分が飛換地となつたこと自体はやむを得ないものというべきである(従前地の原位置の変更を認めないとすれば、右目的の達成が不可能となることは明らかである。)。本件従前地が、幹線道路である伏見町線の東側約一〇メートルの位置にあつたのに対し、本件換地は右道路の西側約九五メートルの位置にあり、伏見町線と秋竹線との交差点への距離が、本件従前地よりも約八五メートル増加し、その分だけ交通機関への距離も増加したことが認められる反面、本件換地も本件従前地と同様、秋竹線に南面していること、本件事業開始当時の状況に比較し、右秋竹線及び伏見町線は大幅に拡幅整備され、その他にも幅員八ないし一〇メートル程度の適正幅員を有する街路が相当数、新設若しくは拡幅整備されたこと、本件換地の西方約七〇メートルの位置に正木南公園が新設され、従前地の付近にはなかつた公共空地も確保されたこと、各街区も整然と区画されることになつたこと、本件従前地に比べ本件換地は整形された土地となつたこと、更に、原告が本件従前地を取得した当時、既に右土地上には第三者所有の建物が存在し、右建物は営業用の店舗として別の第三者(三名)に対して、賃貸されており、原告自身が右土地において営業行為を行う等の具体的な計画は有しておらず、原告は資産運用の一方法として本件土地を所有していたものであり、右利用状況は、本件事業開始当時においても、基本的には変わりはなかつたのに対し、本件換地においては、被告が本件事業を遂行する過程で、被告が右建物所有者、借家人に対し、移転交渉を行い、相当額の補償金を支払つた上で右建物に関する権利関係を消滅させ、被告において、右建物等の地上物件を完全に撤去した結果、本件換地は更地として原告に与えられることになつたこと、本件換地処分の減歩率が、他の者に対するそれと比較して特に不利益なものと認めるに足りる証拠はないことなどの諸般の事情を総合的に考慮すると、本件換地は本件従前地と照応したものと認めるのが相当である。

4  原告は、本件従前地の近隣には、換地とすることが可能な土地(鉄道用地の廃止によつて生じた未指定地)が存在したのであり、これを無視して前記のとおり、遠方に飛換地したがために、不照応が生じた旨主張する。

そこで、この点についてみるに、当初の金山総合駅計画によれば、鉄路の南側にも駅舎を設置することが計画されており、昭和二四年の当初設計、昭和三〇年の設計変更においても、右駅舎敷地に当てるための鉄道用地が本件従前地付近に確保されていたが、昭和四三年になつて、右計画が一部変更され、国鉄中央線、東海道線及び名鉄線上に橋上駅を設置することとし、鉄路南側には駅舎を設置しないことになつたのに伴い、同年八月、事業計画の変更が行われ、鉄道用地が廃止され、国鉄への換地予定地であつた右土地が未指定地となつたことは、前記認定のとおりである(別紙図面四の第1ないし第3図参照)。原告は、未指定地内に、原告に対する換地を定めるべきである旨主張するのであるが、右主張は、次の各理由により失当である。すなわち、まず、右未指定地は本件従前地の北側約二〇ないし三〇メートル離れた位置にある近傍地の一つであるにすぎず、本件従前地の原位置にある土地ではないこと(別紙図面四の第1ないし第3図参照)、次に、右の金山総合駅の駅舎設置計画の変更、それに伴う事業計画の変更が行われはしたものの、被告は、右未指定地と広場用地とを合わせた土地については、右土地が金山総合駅の南側の出入口に当たるとともに、幹線道路である伏見町線に接続する位置にあることから、終始一貫して、金山総合駅南口の整備上、必要な土地であると考え、右土地を金山総合駅に関連する公共的な施設、用途のために一体的に利用し得るように換地設計をし、事業計画を立ててきたものであり、その一部分を私人である原告に対し換地として与えることは、右事業計画及びこれにより達成される本件事業の目的に背馳すること、更に、本件従前地のあつた街区に属する一帯の土地は、前記のような事情ですべて飛換地とされたものであり(別表及び別紙図面七参照)、これらの土地所有者の多くは、金山総合駅計画の趣旨、目的を了承し、金山総合駅の南口整備の公共的必要性のために飛換地に応じたものであることが窺えるのであり、これを本件事業の中途において、原告ら一部の者(私人)に対してのみ右未指定地に換地するようなことをすれば、関係権利者間に著しい不公平感を生じ、収拾のつかない混乱を招きかねないこと(右未指定地の形状、面積からみて、右飛換地に応じた者すべてに対して換地を定めることは、過少地積の宅地を生ずることになり、換地設計上、技術的に困難である。)などの諸点に照らし、原告の主張するような換地処分は、これを行う余地のないものであり、被告がこれを行わなかつたことには何ら違法な点はない。

5  したがつて、本件換地処分は、それが飛換地であることを十分斟酌しても、総合的にみて、本件従前地と照応したものというべきであり、原告の照応原則違反の主張は、その理由がない。

三請求原因2の(二)(事業施行権の違法行使)について

1  原告は、被告が別紙図面四の第1図記載のとおり鉄道用地を公共の用に供するものと定め、広い鉄道用地の敷地を換地の対象となる宅地から除外した当初設計は違法な事業施行権の行使である旨主張する。しかしながら、原告の右主張が、被告が右鉄道用地を、一般の宅地の減歩(公共減歩)によつてその用地が生み出されるべき「公共施設」(特別都市計画法二条一項、同法施行令二条、土地区画整理法二条五項、同法施行令六七条)として設計したことを前提とするものであれば、右主張はその前提において誤りである。すなわち、右公共施設は、右関係法令の規定により、道路、公園、広場、河川等の一定の施設に限定されており、右鉄道用地がこれに該当しないことは右各規定から明らかであり、被告もこれを自認するものであるうえ、〈証拠〉によれば本件事業の当初から、右鉄道用地を含めた、その街区全体を駅前広場とする構想があり、当時、これを都市計画で定める方向で検討がされ、名古屋市と国鉄との間で折衝がなされたが、国鉄側が用地費の負担(従前地の提供等)に応じられなかつたため、都市計画決定の運びとはならなかつたこと、その後、昭和四三年に、事業計画が変更され、右鉄道用地が未指定地となつた際にも、被告としては、右未指定地を含めてその街区全体を、土地区画整理法二条五項所定の公共施設の一つである広場(駅前広場)とするように事業計画を変更することも検討したが、この方法によると、公共減歩が増加し、ひいては、一般の宅地所有者に犠牲を強いる結果ともなることを考慮して、右未指定地について、名古屋市が従前地を提供し、これに対する換地とするとの方法を採用したことが認められるのである。したがつて、被告としては、本件事業の当初から、右鉄道用地ないし未指定地を「公共施設」として設計した事実は存在しないのであつて、終始一貫して、従前地の手当てを要する換地予定地として設計し、現に、そのような換地処分をしているのであるから、原告の主張は、その前提において誤りであるといわざるを得ない。

原告の右主張は、これを善解すれば、右鉄道用地については、前記関係各法令上、これを特別扱いすることを許容する明文の規定がないにもかかわらず、被告がこれを一般の宅地所有者(私人)に対する換地の対象地から除外したことが事業施行権の濫用(違法行使)であるとの趣旨と解し得る。そこで、この点について検討してみるに、一般に、土地区画整理事業は、健全な市街地の造成を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを、その目的とするものであり(土地区画整理法一条)、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るために行われるものであつて(同法二条一項)、その事業計画においては、環境の整備改善を図り、交通の安全を確保し、災害の発生を防止し、その他健全な市街地を造成するために必要な公共施設及び宅地に関する計画が適正に定められていなければならないものとされているのである(同法六条二項、六八条)。したがつて、被告が本件事業を遂行するに際しては、その施行地区の全体を見渡して、公共施設の整備改善、宅地の利用増進の目的に適うような事業計画を立て、換地設計をなし、換地処分を行つて、いわば面的な環境整備を行うべきものであるから、右事業計画の立案、具体的な換地設計の策定に関しては、施行者たる被告の、土地区画整理事業の趣旨、目的に則つた合目的的な裁量に委ねられる面があることは否定し得ないのである。また、被告は、照応原則に則つて換地計画を定めなければならない(同法八九条一項)のであるが、反面、一定の公共性の高い施設(その中に鉄道、軌道も含まれている。)の用に供されている宅地については、換地計画において、その位置、地積等に特別の考慮を払つて換地計画を定めることができ(同法九五条一項)、更に、一定の場合には、いわゆる創設換地を行うことも許容されているのである(同条三項)。本件における前記鉄道用地は、当初の計画によれば、金山総合駅の南側の駅舎予定地であり、国鉄に対する換地予定地として設計されたものであることは前記認定のとおりであり、右施設が公共性の高いものであることは同法九五条一項一号、同法施行規則六条三項の規定に照らし明らかである(もつとも、右鉄道用地は、当時、既に「鉄道」の施設の用に供されていたものではないので、同法九五条一項一号が直接適用されるわけではない。)。したがつて、地域環境の整備のため、このような公共性の高い施設を設置するに当たつては、本件の如くその敷地につき、同法九五条一項所定の場合に準じて、換地計画(換地設計)において、その位置、地積等に格別の考慮を払つて換地を定めることも、当初計画されていた駅舎設置の公共的必要性に鑑みると、被告の前記裁量権の範囲内のものと認めるのが相当であり、許容されるものというべきである。このことは、当初設計の当時、本件事業が依拠していた旧都市計画法、特別都市計画法においても、右に述べたところと基本的に変わりがない(旧都市計画法(昭和二九年五月二〇日法律第一二〇号による改正前のもの)一二条一項所定の「宅地トシテノ利用ヲ増進スル為」との土地区画整理の施行目的から、右の趣旨を読みとることもできよう。)。

その後、前記のような経緯で右鉄道用地は廃止され、未指定地となり、最終的には名古屋市に対する換地となつたのであるが、前記のとおり、右計画変更にもかかわらず、金山総合駅の南口整備の公共的必要性はいささかも減じてはいないのであつて、被告において、右土地は右整備上、これを公有地として確保しておくことが必要な土地であると判断し、右換地処分を行つたものであり、右判断及び換地処分は、前記二の4で説示した諸般の事情に鑑みると、不合理なものとはいえない。

したがつて、被告の前記裁量権の行使に違法な点はないので、原告の右主張は、その理由がない。

2  次に、原告は、被告が、当初設計において、広場を公共施設用地と定めたことも違法な事業施行権の行使である旨主張する。しかしながら、広場は、特別都市計画法二条、同法施行令二条によつても、また土地区画整理法二条五項によつても「公共施設」とされており、これを公共施設として事業計画を決定したことには何ら違法な点はない。

原告は、当初設計において本件従前地の原位置付近に設定された公園及び広場並びに広場の南に接する公園はいずれも極めて狭小なものであり、これを公共の用に供する公園、広場として設置することによる効用はなく、これを公共のために用いる理由はない旨主張するが、被告は、右公園、広場並びに前記鉄道用地をそれぞれ独立した相互に無関係なものとして設計したわけではなく、前記のとおり、これらの土地は、金山総合駅計画の一環である駅南口の公益的な施設のための用地として総合的かつ一体的に整備し、利用されるべきものとして設計したものであるから、個々の広場、公園の用地の形状を個々的に取りあげて、その効用の有無を論ずることは当を得ないものといわざるを得ない。

また、原告は、被告が別紙図面四の第2ないし第4図に記載のとおり、その後、設計変更を重ね、公園の廃止及び広場の計画変更を行つたことは、右広場及び公園が、真実、公共の必要のためのものではないことの証左である旨主張するが、右各図からも明らかなように、右広場の形状が変化し、公園が廃止されはしたものの、右広場を含む鉄路南側のブロック全体の形状には殆ど変化はないのであり、前記のとおり、右ブロック全体を総合的かつ一体的に整備する必要性はいささかも減じてはいないのであるから、右ブロック内での公益的な施設の位置関係について設計変更がなされたからといつて、これをもつて、右広場及び公園が、真実、公共の必要のためのものでないとは、到底いい得ないのである。

更に、原告は、当初設計以来、三〇年以上経過した現時点においても、なお、その用途(広場)に使用されていない事実は、右用地を広場とする必要性がないことを裏付けるものである旨主張する。確かに、本件広場(別紙図面四の第4図)については、未だに最終的な整備がなされていないことは被告の自認するところであるが、このことをもつて、右広場が不必要なものであると認めることはできない。かえつて、前記認定のとおり、現時点における金山総合駅計画の概要は、別紙図面八に記載のとおりであり、名古屋市は、同市に対する換地部分を含む駅南側の一団の土地については、そこにバスターミナル、タクシー乗降場、緑地等の公共的な施設を設け、一体的に公衆の利用に供することを計画しているのであるから、右広場が右計画の遂行上必要なものであることは明らかであり、原告の右主張も採用できない。

四請求原因2の(三)(不公平取扱い)について

原告は、原告に対する本件換地処分が、本件従前地付近の宅地所有者に対する換地処分に比較し、不当に不利益なものであり、不公平なものであるから違法である旨主張する。そこで、この点についてみるに、別紙図面一の赤線で囲まれた従前の各土地に対する各換地の内容が別表及び別紙図面七記載のとおりであることは当事者間に争いがない。右事実によれば、本件従前地のあつた街区に属する土地はすべて飛換地とされ、その各換地と各従前地との位置関係、距離は、実に様々であるが、その中で原告に対する本件換地は、本件従前地の存した街区に比較的近い位置にあることが認められる。原告は、本件従前地付近の宅地所有者に対する換地処分と比較して、不利益な取扱いを受けた旨主張し、原告本人の供述中には右主張に副う部分があるが、反面、原告本人は、一般的には伏見町線より東側の位置の換地を受けた人は恵まれた人であると思うが、その中には減歩率が高くなつている人もいるかもしれないので、一概に、どの人が有利若しくは不利な取扱いを受けたとはいえないし、それを指摘するだけの具体的資料、根拠を持ち合わせていないとの趣旨の供述もしているのであるから、右主張に副う供述によつては右主張を認めるに足りないものというべく、他に、これを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告の右主張もその理由がない。

五以上の次第であり、本件換地処分につき、原告が主張する違法事由はすべて理由がないことに帰し、本件換地処分は適法なものと認めるのが相当である。

六よつて、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につ行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官高橋利文 裁判官加藤幸雄 裁判長裁判官加藤義則は転任のため署名押印することができない。裁判官高橋利文)

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